ご挨拶

ようこそ、俳介護のページへ

 

ご訪問いただき、ありがとうございます。

本サイトは、老母を介護する日々の合間につくった俳句や短歌に短文を添えたブログ調のウェブページです。

タイトルの「俳介護」は“介護の合間の俳句”が、ともすれば“俳句の合間の介護”になってしまう自分の行為を名付けた造語です。

このページをスクロールしていただいた直下のページが最新のページとなっていますが、初めての方は、2023年11月の第一回「バナナ」のページをまずお読みいただけると有り難く存じます。

なお、ページの中で綴られる出来事は、時系列にはなっていないことを申し添えておきます。

 

※noteの「喜怒哀”楽”の俳介護+」でも、短歌・詩・その他俳句を公開中です。

 

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汗だくの介助も母の尿ちよろり

 

「おしっこがしたい」と言われてトイレに連れていくのだが、いざトイレに行くと尿が出ないということが母にはよくあった。そこでベッドに戻ってしばらくすると、また「おしっこがしたい」と言う。それでまたトイレに連れていくのだが、足が萎えてからはその度ベッドから車椅子に移乗して、またトイレで車椅子から便器に移さないといけないから、夏などはそれだけで汗だくになってしまう。

そうやってトイレに連れていって、「ちょろり」っと音がしてそれで終わりだと、「こっちの流した汗の量と変わらんやないか」と思ったものだ。

しかし、いま思うと介護というのは、その「ちょろり」のために汗を流す行為なのかもしれない。

 

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かなしくて

かなしくてかなしくつてかなしいとかなしいときの母はひぐらし

 

折に触れて母は「かなしい」と言った。祖父や祖母はどこにいるのかと尋ねてもう亡くなったと伝えたとき。父の死を伝えたとき。手や足が痛むとき。

そんなこと言われてもなあ・・・、亡くなったものはどうしようもないやないか・・・。痛み止め飲んだら、もう摩るぐらいしかできんやないか・・・。

そう思ってたけど、お母さん、いまなら分かります。かなしくてかなしくつてかなしい。亡くなった人が生き返らないのも、心の痛みにつける薬がないのも、分かりきったことだけど、身悶えするくらいにかなしい。ぼくもお母さんと同じように今日は一日かなしいと言って過ごします。どうかあの世で聞いていてください。

 

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はじめての母なき春や星潤む

 

季節はめぐるもので、今年還暦となった私は、もう春夏秋冬を何十回となく春をむかえてきたけれど、母のいない春をむかえるのは今年はじめてだった。

生きていたとしても、大腿骨の骨折をしてからの母は車椅子生活だったし、認知症もすすんで何かに感動することもなくなっていたから、桜を見に連れ出すこともなかっただろうが、それでも春というこころ弾みのある季節を母と一緒にむかえられないのはさみしかった。

右城暮石に「妻の遺品ならざるはなし春星も」

夜空を見上げて、ふとこの句を思い出し、私にとって春の星は、母の遺品か、それとも母そのものか、そんなことを考えた。

 

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寒卵2

寒卵転がればまた子に戻る

 

母はしばしば私のことをわすれた。父が亡くなってから、わたしのことを父と思っているなとか、どこかの施設か病院の職員だと思っているなというような話し方をすることも多かった。あるいはどこの誰だか分からずに怪訝そうな目で私を見ることもあった。

だが、母は私のことをわすれ去ることはなかった。転がった卵がくるりとまた元の場所に戻ってくるように、ときどきまた私が自分の子どもであることを思い出す。その頻度はだんだんと少なくなってはいったけれど・・・・・・。

亡くなる日の未明、「あなたの息子の幸彦ですよ、分かりますか?」と訊くと「はい」と答えた。本当のところはどうだか分からないが、最期にまた母の子どもに戻ったのだと思うことにしている。

 

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震災忌

ただ独り逃ぐる身となり震災忌

 

つい最近も青森県で大きな地震があった。戦争や災害の報道に接するたび、ああきっと戦地にも被災地にも、肉親の介護をしている人がいるに違いない。危険が迫っても逃げるに逃げらず、途方に暮れているのではないかなどと考える。私自身も母が生きていた頃は、自分たちも被災したらどうしたものだろう。とても母を連れて避難所には行けそうもない・・・などと考えを巡らしたものだ。

母が死んでしまったいまは、そんな思案を巡らす必要もなくなった。わが身ひとつ、とにかく安全な場所に逃れることだけ考えればよい。こころが軽いと言えば軽いが、やはり一方ではさみしくもある。

 

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薄暑

老母にも汗かかせたき薄暑かな

 

不整脈のある母には温度差がないほうがよいと考えて、わが家では春、秋のある時期を除いては、年中エアコンをつけて室温を一定に保っていた。そのせいか、ほとんど母が汗をかくのを見なくなった。もしかしたら、冷房を入れることによって汗をかかなくなり、汗腺機能が衰えてしまっていたのかも知れない。よかれと思ってやっていたことが母の身体にとって、よかったのかどうか・・・。

風薫る初夏のさわやかな日など、母を車椅子で外に連れ出して、うっすらと汗をかかせてやりたいと思うことがあったが、結局それも果たせないままに終わってしまった。

俳句に詠むより実践することこそが「徘介護」だったといま改めて反省している。

 

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優しき人に

人生で何も成し遂げられぬともただただ優しき人になりたし

 

noteに掲載中の、母が認知症になってから死ぬまでを描いている小説は、介護の俳句や短歌を詠みはじめた頃まできた。母の死まであと3年である。

この短歌は、もっとも早い時期に詠んだもので、ほとんどが凡歌しかない私の短歌の典型的なものであろう。だが、小説にもこの歌を載せた。理由は、このブログは少なくとも自分の作品の秀作集ではなく、私の介護の軌跡と、それを通じて母の生きた軌跡を記すことを目的としたものだからである。

もっとも、7000余りの句と1500余りの歌を詠んでも未だに句や歌の良し悪しの分からぬ私には、秀作を集めたくても叶わぬことでもあるけれど・・・。

 

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春灯

春灯やこの椅子に母ここに父

 

父が亡くなって五年余り、母が亡くなって一年、いまだに二人の死を乗り越えたとは言い難い。

端的にいうと毎日が面白くない。たとえば仕事が早く終わった日、「さあ、これから帰って父と一杯やれる」というときの父がいない。たとえば日曜日、「今日は天気もよいし、父と母とどこかへ行こうか」などというときの父も母もいない。おいしいものを食べても一人、うつくしいものを見ても一人、日々の生活に“張り”がない。

そのうえ母が亡くなって、俳句がほとんど詠めなくなった。俳介護をはじめてからの四年間、巧拙は別としても7400句あまりを詠めたのに、亡くなってからの1年間、詠めたのは100句足らず、結局のところ私の俳句は文字通り「俳介護」だっということか。

 

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寒し

鍵開くる音響きけり寒き家

 

母が亡くなって一年余り。いまだに一人暮らしに慣れない。中学校入学と同時に下宿して親元を離れた私だが、四十歳の頃両親とまた同居することになって以来、家に帰ればいつも父と母がいたし、父が亡くなってからは、私が仕事から帰るまで姉かヘルパーさんが母の面倒をみてくれていたから、帰ってきて自分で家の鍵を開けるということもなければ、帰ってきて部屋を冷やしたり暖めたりすることもなかった。いつ帰っても、鍵は開いていて、夏は冷房、冬は暖房が入っていた。

母が死んで、姉もヘルパーさんも家には来なくなったから、当然ながら自分で鍵を閉めて家を出て、自分で鍵を開けて家に入る。鍵を開けるカチャリという音が響くと、「ああ、独りなんだなあ・・・」と実感する。

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もう良きかと尋ねて母は秋に逝く

 

2024年9月30日に母は旅立った。その二週間ほど前だったか、姉から「この間おかちゃんが急に『わたしやもう死んでもええか』って言うた」と聞かされた。この頃の母は姉のことは認識できなくなって、しばしば他所の人のように接することが多かったというが、このときは確かに姉だと認識して言ったようだ。

少し気にはなったが、まさか本当に逝くとは思わなかった。亡くなってみると、きっと母はもうとっくに限界を超えて生きてくれていたのだと思った。ただ、なぜ母がこの年に逝くことにしたのか、それが分からない。息子である私はもう自分がいなくても大丈夫だと思ったのか? それともまだまだ心配だが、これ以上はもう付き合いきれないと思ったのだろうか?

 

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