ご挨拶

ようこそ、俳介護のページへ

 

ご訪問いただき、ありがとうございます。

本サイトは、老母を介護する日々の合間につくった俳句や短歌に短文を添えたブログ調のウェブページです。

タイトルの「俳介護」は“介護の合間の俳句”が、ともすれば“俳句の合間の介護”になってしまう自分の行為を名付けた造語です。

このページをスクロールしていただいた直下のページが最新のページとなっていますが、初めての方は、2023年11月の第一回「バナナ」のページをまずお読みいただけると有り難く存じます。

なお、ページの中で綴られる出来事は、時系列にはなっていないことを申し添えておきます。

 

※noteの「喜怒哀”楽”の俳介護+」でも、短歌・詩・その他俳句を公開中です。

 

夕暮に庭掃く父や蟇の声

 

父の仕事を私が取り上げてしまった。父の負担を減らそうという考えからだったが、結果的には失敗だったと思う。料理が好きだった父が、料理をするのがうるさくなってきたと言い始めたのは、亡くなる3年程前からだったと記憶している。今まで家事全般なにもかも父に頼りすぎてきた。これからは父に代わって私が出来る限りの家事を引き受けよう……。そうして、料理も洗濯も掃除も家庭菜園も庭木の手入れもと奮闘していたある日、父が所在なげに庭を掃いていた。

父に代わっては間違いだった。代わるのではなく、支えるべきだったのだ。だが、あの当時、それが私に出来ただろうか? いまも自問自答を繰り返している。

 

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苺という字

はつなつの苺香れるわが家のくさかんむりは今も父なり

 

母が話しかけたり、呼んだりする相手は、断トツで「お父さん」「おとちゃん」である。ときどき「お母さん」と言うこともあるので、この「お父さん」が私の父(つまり母の夫)ではなく、祖父のこともあるのかも知れないが、状況から考えると、ほとんどは父のことではないかと思われる。どこかが痛むとき、目覚めて近くに誰もいないとき、ふとしたとき、母は父を呼ぶ。そのたび今も、父が母を守り支えているのだと感じる。

「苺」という漢字は、母という字を「くさかんむり」が覆っている。まるで、くさかんむりが母を守っているかのようだ。わが家で母を守るくさんかんむりは、姉や私ではなく間違いなく亡き父である。

 

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葱坊主

葱坊主病めるものみな一括り

 

認知症とのつき合いも長くなった。母があと何年生きるかは分からないが、母が死んでも認知症とのつき合いは終わるまい。そう、いずれこの病が、私のこころの扉をたたく日が来ると考えている。

多様性の時代と言われるようになったが、その反動なのか多様なものを一括りにする傾向も感じる。多様なものを多様なまま受け入れるのは大変なことだから、少しでも扱いやすくしたいという心理が働くからだろうか。

『癌』『認知症』などという病気も、一括りにして扱われすぎだと思う。もっとも、かく言う私も「認知症の母」としばしば書く。だが、実際は「母が認知症」なのであって、「認知症の母」なのではない。

 

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夢の世を母生きわれは葱作る

 

不思議だ……。なんて明瞭に喋るのだろう。一人で幻と喋っているとき、寝言を言っているときの母の声は、驚くほどしっかりしている。ところが、目覚めて私と喋ると、呂律が回らなかったり、寝ぼけたような話し方になったりすることが多い。母にとっては、私と接する時間が夢で、夢の中の時間が現実であるかのようだ。

永田耕衣に「夢の世に葱を作りて寂しさよ」パロディのつもりも、ましてや「本歌取り」のつもりもなく、ただ葱を植えていて、耕衣のこの句を思い出し、「夢の世」から母を想って詠んだ。耕衣は、母の句をたくさん詠んでいる。そのためか、雲の上の人なのに、どこか身近な人のように思えてしまう。

 

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穴惑

床擦れは耳にもありや穴惑

 

ある夜、耳が痛いと言う。脊椎間狭窄症の後遺症で腕や足の痛みを訴えることは頻繁にあるが、耳は初めてだった。翌朝見ると、左耳が赤くなって、5ミリほどジュクッとしたところがある。訪問看護師さんに尋ねると、褥瘡(じょくそう)=床擦れだとのことだった。布団と同じ幅の、肩までカバーできる大きな枕を購入して、耳だけに圧力がかからないようにし、処方してもらった薬を塗って、一ヶ月ほどで治った。それにしても床擦れが耳にもあるとは知らなかった。

秋彼岸を過ぎても穴に入らず、徘徊している蛇を穴惑という。ところで蛇には外耳と呼ばれる外に表れる耳はないそうだ。したがって、耳に床擦れができることはない。

 

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葉桜

父退院帰路は葉桜ばかりなり

 

これを退院というのだろうか。やせ衰え、立つこともできず、ことばもほとんど発せられない。圧迫骨折の入院でまさかこんな状態になるとは思いもしなかった。入院して10日ほどは、記憶に混乱はあったもののしっかりとことばも喋り、リハビリも順調に見えた。ところが、新型コロナウィルスの流行によって面会できなくなった2週間ほどのうちに、父はすっかり変わってしまっていた。もう圧迫骨折の治療などどうでもいい。ただただ早く父を家に連れて帰りたかった。

4月末、ともかくも退院できることになって父を家に連れて帰った。帰路に目にする葉桜を見ながら、桜咲く頃にリハビリをしていた元気な父の姿を思わずにはいられなかった。

 

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何者

何者といふべきものになれぬまま かはたれのわれ たそかれのわれ

 

「かはたれ」「たそかれ」。どちらも古語で、それぞれ明け方、夕暮れの薄暗い時をさす。うす暗くて「彼は誰?」「誰そ彼?」と尋ねるところからきたことばだという。

有難いことに五十九歳になった。来年は還暦だ。同級生には、孫のいる人だっている。なのに自分はなんという体たらくだろう。妻も子もなく、誇れるべき仕事もしてこず、両親におんぶに抱っこでこの歳まできてしまった。せめて両親の恩やお世話になった方々に報いる生き方がしたいが、この先なにが出来るかも分からない。

ただ一つだけ、母だけは傍にいて見送りたいと思う。たとえ母が私のことを息子と分からなくても、何者でなくても……。

 

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ひこばえ

死してより父とは言葉ひこばゆる

 

父はことばの人であったと思う。若い頃から仕事にも家事にも本当にまめな人で、身体を動かすことを厭わない人だったが、印象に強く残っているのは、父の行為(例えば、料理だったり、日曜大工だったり)よりも、父から伝えられた家族の歴史や自身の経験談、折々に掛けられたことばのほうだ。

父が私に伝えてくれたことばは、名言でも、機知に富むことばやユーモアあふれることばでもなかった。むしろ、生活や仕事のさまざまの場面で、ふと思い出される、そんなことばだといまになって思う。

父という私にとっての大樹はもはや存在しない。しかし、その切り株からは、いまもことばが芽吹き続けている。

 

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問うておき話を聞かず餅食ふか

 

母は以前ほど喋らなくなった。ことばが出てこないせいもあるのだろうが、本能的にエネルギーの消費を抑えているのかも知れない。(と、書いているいま、一人で意味不明のことをずっと喋り続けているが……。)

以前はよく質問をした。食品のパッケージの商品名を見て「なんということよ?」と尋ねたり、キッチンの調理用具などに目をとめて「ありゃ、なによ?」と訊いたり……。柿を見せたときに、「いつまで柿よ?」と問われた時には、ちょっと虚を突かれた。確かに腹に入れば、もうそれは柿ではない。

だが、問うておいてこちらの説明には興味を示さず、餅など食っている時には思わず「おい!」と言いたくなる。

 

 

 

さばが好き!

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秋日

母の便摘まんで出せる秋日かな

 

出た便の処理はまだいい。下痢便で大惨事ということもないわけではないが、出てしまえば楽になるのだから幸いとすべきである。うんこがしたい。しかし、硬くて出てこない。母が出してくれと訴える。こちらのほうがよほどしんどい。看護師さんのように摘便(肛門に指を入れて掻き出す)はうまく出来ないから、トイレに座らせてお腹を摩ったりしながら、肛門から便が頭を出すのを待つ。母を中腰に立たせて、頭を出した便を摘まんで引っ張る。硬くなった便は途中でちぎれることが多いので、これを何度も繰り返す。最後に軟らかめの便がにゅるっと出て終了。

秋の日の落ちるのは早い。西日の射していたトイレは、はや陰りはじめていた。

 

 

わが家も減塩!

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