缶詰が父より届くそのたびに共に入りたる缶切り増ゆる
父は気遣いの人であった。進学して一人暮しを始めた頃、年に数度小包を送ってくれた。中には故郷の食べ物や日用品、そして缶詰が入っていることが多かった。思い出すのは、父が送ってくれる缶詰には必ず缶切りが添えられていたことだ。電話でお礼がてら、前に缶切りは送ってもらっているからもう入れてくれなくていいと伝えても、次の回もまた入っている。母によると、「缶切りぐらいなかった向こうで買わよ」と言っても、「幸彦に手間かけさせたらあかん」と言って、缶詰を買うごと缶切りも買うということだった。
いまは、缶切りのいらない缶詰も多くなった。それでも仮に父が缶詰を送ってくるとしたら、缶切りを添えているような気がする。
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