ありがとう

暁に吾を父と見て母言へり「いろいろしてくれてありがとう」

 

あれには驚いた。父が亡くなって、二、三ヶ月経った頃だったろうか。真夜中に母をトイレに連れていって便器に腰掛けさせると、「お父さん」と言って、私の胸に頭をぐりぐりと押し当てた。それは思いもよらぬ愛情表現だったが、母のあふれんばかりの父への思いを感じた行動でもあった。

ちょうど同じ頃、暁に母が隣に眠っている私に向かって、「お父さん。いろいろしてくれてありがとう」と言ったのにも驚いた。母が父にこんなふうに感謝のことばを述べるのを聞いたことがなかったからだ。

母が認知症になってから、父は多くのものを犠牲にしてきたと思っていたけれど、それに見合う愛情と感謝を母から受けていたのかも知れないといまは思う。

 

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