朧夜

朧夜や見えざる人と話す母

 

母はときどきそこに存在しない人と会話していた。認知症だと解っていても、最初は正直気味が悪かった。しかし、そのうちに慣れてしまった。幻との会話だけでなくて、一晩中独り言を言っていることもあれば、一時間ほど延々と数を数えていることもあれば、話しかけてくるものの言いたいことが解らないこともある。さらには、「きいしいはあ、もはあよお」などともはや単語にもなっていない音声を発するといったことまで経験すれば、もう少々のことには驚かない。

亡くなる一、二年前は私と話しているときより幻と話しているほうがよほど文脈がしっかりしていると感じること日もあった。

その幻との会話が楽しそうなときは、ちょっぴりさびしかった。

 

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朧夜

朧夜の母には淡きものばかり

 

亡くなる前の1年から2年、母には、この世界がどう見えていたのだろう。姉や私のことを誰だと思っていたのだろう。テレビを観ても反応しなくなっていたから、いろいろな物が認識できなくなっていたに違いない。

もっともそれも日によってかなり落差があって、たまには姉やわたしのことを認識している日もあっただろうし、いろいろな物が比較的よく認識できていた日もあっただろうが、反対にほとんどの物が認識できていない日もあったのではないかと思う。

そんな日の母にとって、世界はまるで朧のようだったのではないかと想像する。そのとき母にとっては、世界ばかりか自分の存在さえ淡く感じられていたのかもしれない。

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