死してより父とは言葉ひこばゆる
父はことばの人であったと思う。若い頃から仕事にも家事にも本当にまめな人で、身体を動かすことを厭わない人だったが、印象に強く残っているのは、父の行為(例えば、料理だったり、日曜大工だったり)よりも、父から伝えられた家族の歴史や自身の経験談、折々に掛けられたことばのほうだ。
父が私に伝えてくれたことばは、名言でも、機知に富むことばやユーモアあふれることばでもなかった。むしろ、生活や仕事のさまざまの場面で、ふと思い出される、そんなことばだといまになって思う。
父という私にとっての大樹はもはや存在しない。しかし、その切り株からは、いまもことばが芽吹き続けている。