やはらかな目覚めの顔で「幸彦か……」とつぶやく母よこの人が好きだ
幸せよりも幸いがいい。もちろん独身男のひがみととってくれてよい。幸せにはなりたいが、昨今どうも幸せ過ぎることは、どこかで苦しんでいる人が本来享けるべき分を横取りしていることのような気がしてしまう。
私の名前は、「幸せな男子」ではなく、「幸いな男子」という意味だ。父は十二人兄弟で女が十人。母は四人姉妹。女子の多い両家の中で唯一、幸いにも本家を嗣ぐ男子が生まれた。それで幸彦と名付けたと聞いている。
介護のいる母と暮らしている今を幸せというのは、さすがに瘦せ我慢めくが、母が生きていてくれることは素直に幸いである。そしていつか母が旅立っても、やはりそれも幸いではないかと思う。