老母まだおとぎの国に合歓の花
母が寝言をつぶやいている。その顔が笑っている。きっと楽しい夢を見ているのだろう。いまの母にとって、こうして楽しい夢を見ている時が一番幸せなのかも知れない。
認知症が進み始めた頃の母の日記が残っている。二か月にも満たない短い期間だが、それを読むと目が潤んでくる。自分の記憶が蝕まれていくことの混乱と恐怖はいかばかりだっただろう。亡くなる一、二年前の父もそうだったに違いない。何かを言いかけて「出てこん……」と深いため息をついた父の顔がわすれられない。
それでも認知症という病気を私は憎めない。何度も泣かされたが、大切なことも教えてくれている病気のようにも思える。