三分の一ほど風邪という老母
母の嚏は一回では終わらない。なぜか一度くしゃみが出ると、十回近く続く。そしてその後、「風邪ひいた」と言うのが口癖だ。ただ、この日は姉が、「お母さん、風邪引いたん?」と問うと、「三分の一ほど風邪」と答えた。母は認知症には違いないのだが、たまに認知機能の衰えた人にこんなことが出来るのか、と思わせる離れ業を演じる。例えば食事の時、箸がうまく使えないとフォーク、フォークがだめならスプーン、それもだめなら手で、と段階的に手段を変えたりする。
ところで掲句、俳人ならば「風邪心地」と使うところか。月野ぽぽなさんに「半身が深海となる風邪ごこち」(※1)・鈴木牛後さんに「風邪心地わが外側に誰かゐる」(※2)
※1 2010年 角川『俳句11月号』 ※2 2016年 角川『俳句11月号』