夢の世を母生きわれは葱作る

 

不思議だ……。なんて明瞭に喋るのだろう。一人で幻と喋っているとき、寝言を言っているときの母の声は、驚くほどしっかりしている。ところが、目覚めて私と喋ると、呂律が回らなかったり、寝ぼけたような話し方になったりすることが多い。母にとっては、私と接する時間が夢で、夢の中の時間が現実であるかのようだ。

永田耕衣に「夢の世に葱を作りて寂しさよ」パロディのつもりも、ましてや「本歌取り」のつもりもなく、ただ葱を植えていて、耕衣のこの句を思い出し、「夢の世」から母を想って詠んだ。耕衣は、母の句をたくさん詠んでいる。そのためか、雲の上の人なのに、どこか身近な人のように思えてしまう。

 

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