木枯やこころの家をさがす母
「帰りたいよぉ」泣きそうな声で母が言う。「ここがお母さんの家やで」と言っても、母には理解出来ない。無理もない。娘や息子は知らない人だ。記憶の中にある父や母(私からすると祖父母)はどこにもいない。いくらここが家だと説いたところで、母にはここが自分の居場所だとはとても思えまい。
実際に母の実家であった故郷のお寺(そこは地域の檀家寺でいまは無住職となっている)に連れていったこともある。だが、「板尾の寺へ帰ってきたで」と伝えても、きょとんとしている。母が帰りたい場所は、もはや母のこころの中にしかないのだ。
「海で出て木枯帰るところなし」山口誓子。母は認知症という海で途方に暮れている。
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