抱ふれば冬の匂ひの老母かな

 

ここにいう匂いとは嗅覚で感じる、いわゆる香りとは違う。ある種の風情とでもいえばいいだろうか。ベッドから車椅子に母を移乗するときに抱きかかえる。そのときに、ふと冬に着る毛糸の服がふくんでいるようなほのかな空気の温かさを感じた。

こんなふうに冬の風情に温かさを感じるのは、私が紀州という温暖な地に生まれ育ったためであって、厳寒の地で暮らす方ならまた別の感じ方をするかも知れない。

とは言え、人間の一生を季節に喩えれば、90歳を過ぎた母はまさに冬の季節を生きていた。そしてその母の介護をしていた私は長い長い冬籠もりをしていたと言えるかも知れない。

 

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