これ以上帰る場所なき秋の暮
旅の楽しさ、喜びを支えているものは、帰る場所があるということではないだろうか。日頃のしがらみやなりわいから解放されて、美しい風景を見たり、おいしいものを食べたりすることは、心底楽しいことだが、ずっとその状態が続くとしたら、最終的にはこころの癒やしにはなるまい。
そう考えると、やはり帰れる場所が最もこころの休まる場所だ。しかし、母にはもはやその場所は何処にも存在しない。生まれ育った生家も、父と二人で建てた家も、いまは他人の所有するところだ。また、仮にそこに帰れたとしても、母がそこを自分の帰れる場所と認識することはないだろう。
秋の暮、帰りたいという母と途方に暮れる。
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