溶けてゆくアイスクリームと母の語彙
認知症になってことばをわすれる。これはある程度想像はついた。実際、母は多くの物の名前をわすれてしまっているに違いない。
だが、ことばの文脈どころか、ことばそのものが崩壊するとは思いもよらなかった。たとえば、「おしっっこしたい」が「しーたい」。これはまだ状況から意味が理解できたが、「きーしーけーもーはーよー」となると、いかに状況を考えても、何を言いたいのかまったく理解できなかった。
ことばが解けていく。あるいは溶けていく。ときどき母の口から発せられる意味不明のことばを聞くと、文字が線にもどっていくような、真っ直ぐな線がたるんでいくような想像をすることがある。
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