丁寧に暮らしてをればそのうちに何か変はると夏落葉掃く
玄関の飾り棚に花を飾れた日、私は自分に言い聞かせる。「よし、まだこころは潤いを失ってはいない……」
介護をしていると絶望的な気持ちになることがある。これがいつまで続くのだろう。長く続けば続くほど母は衰えていくのだ。そして結局のところ母は死ぬのだ。そんな気持ちのときは暮らしの端々がどこか粗略になる。
そこで花を活ける。庭を掃く。しっかりと食べる。ことばに気を配る。もちろんそれでも母は衰えていくし、いずれは死ぬ。だが、結末は同じでも何かが変わると信じて……。
母亡きいま、喪失感と未来への不安に苛まれながらも、やはり同じことを自分に言い聞かせている。
※ この作品は第26回NHK全国短歌大会入選作品集に掲載されています。
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