初鰹

初のつく物みな母に初鰹

 

「初物を食べると寿命が延びる」といわれている。だから、できる限りわが家では、初のつく物を母に食べてもらうようにしていた。

スーパーなどでその年初めて出回った食材もそうだし、家庭菜園で作っている野菜も、初生りの物はまず母に食べてもらっていた 「初物を食べると寿命が延びる」というのは俗信には違いない。しかし、買うときも作るときも、それを意識することは食事に気を配ることになるから、結果的にこの俗信を信じることは健康的な食事に通じると思う。

ただ、仮に初物を食べたから母が長生きしたのだとして、その長生きが母にとって幸せだったかどうか……。その点について、いまだに私は答えを出せないでいる。

 

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夏落葉

丁寧に暮らしてをればそのうちに何か変はると夏落葉掃く

 

玄関の飾り棚に花を飾れた日、私は自分に言い聞かせる。「よし、まだこころは潤いを失ってはいない……」

介護をしていると絶望的な気持ちになることがある。これがいつまで続くのだろう。長く続けば続くほど母は衰えていくのだ。そして結局のところ母は死ぬのだ。そんな気持ちのときは暮らしの端々がどこか粗略になる。

そこで花を活ける。庭を掃く。しっかりと食べる。ことばに気を配る。もちろんそれでも母は衰えていくし、いずれは死ぬ。だが、結末は同じでも何かが変わると信じて……。

母亡きいま、喪失感と未来への不安に苛まれながらも、やはり同じことを自分に言い聞かせている。

 

※ この作品は第26回NHK全国短歌大会入選作品集に掲載されています。

 

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病む母に添へば桜も聞くばかり

 

この春、姉と7年ぶりに花見に行った。父と母と姉と4人で海南市の小野田にある宇賀部神社に花見に出かけたのが7年前。その年の秋からの1年余りは母の体調がすぐれず3度の入院があり、翌年の初夏には父が亡くなり、夏には母が骨折し車椅子生活となってといった次第で、それから6年一度も花見に行くことはなかった。昨年の秋母が亡くなって7年ぶりの花見となったわけだが、この間桜は私にとって花便りを聞くだけの花であり、物理的にも精神的にももっとも遠い花であった。

長い人生の中には人との交わりにも時期によって親疎があるが、自然との触れ合いにもまた親疎がある。

 

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