茶の花や灯ともさず父と母
もともと父も母もかなり暗くなるまで電灯を点けなかった。父の家に電気が通じたのは戦後だったという。父や母の世代のころの家の中はそんなに明るくなくて、ほの暗さに慣れているということもあるだろう。
だが、母が認知症になり、父もまたその症状を示し始めてからの無点灯は、それとは違う。椅子から立ち上がって灯を点けに行くのが億劫なのか、灯を点けるという行為そのものをわすれているのか、いや夕暮れとなって暗くなったという感覚さえ、父と母にはなかったのかも知れぬ。
外から帰って、暗い部屋に父と母がじっと座っているのを見ると、一瞬ぎくっとした。さまざまなものが暮れかかっていた。
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