掃苔や墓石に遺る父の文字
失敗したなあ……。墓参りをするたびごとに父は、刻まれた「井原家先祖代々之墓」の文字を気にしていた。
故郷の墓をいまの霊園に移すときに、新しく墓石を作り直した。墓碑銘はどうしますかと問われて、筆ペンで走り書きした文字を、石材店がそのまま墓石に彫ってしまったのだそうだ。父としては、それがそのまま彫られるとは思っていなかったらしい。だから、個々の文字のバランスが少々悪い。
「お前が儲けたら、新しい墓を作り直してくれ」と言われたが、残念ながら私もこの父の文字の刻まれた墓に入ることになりそうである。もっとも自分は死んでいるので、それを見届けることは出来ないが……。
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