爽やかに母来し方をわすれけり
四十年来のペンフレンドであるイラストレーターの永田萠さんと先日10年ぶりにお会いして、こんな話をうかがった。
作家の田辺聖子さんがこうおっしゃったという。人には地金というものがあって、一生の中で地位も名誉も財産も実績もあらゆるものが剥がれ落ち、その地金が出るときがくる。そのときに、その人の真価が問われるのだが、残念ながらそれは生まれつきのもので努力では身につけられないものだと。
認知症が進み、自分の過去も子どもである私のこともわすれてしまった母との暮らしは、まさに母の地金に触れた数年であった。
母の地金は美しかった。哀しみが募ると知りながら、私が母のことを書かずにおれないのは、母の地金の美しさゆえかも知れない。
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